11/19/2014

[&] Adventure of Latin typography - Akira Kobayashi



欧文タイポグラフィーの冒険
ローマン体大文字とヒューマニスト・サンセルフ体
小林章 Type Director, Monotype GmbH
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早速はじめようと思います。
「冒険」というタイトルがついているので、
いろいろ入っています。

なんでか?私が折角生身でいるので、
質問を受けたいので、一方的ではなく、
最後の 30分は質疑応答のコーナーにしたいです。
どんどん聞いてください。
前半が知っておいた方がいいことを中心に話しをします。
そのあと、10分間の休憩で、
事前に質問をまとめていただいた質問に解答します。

ドイツに2001年に住んでいて、ドイツでも日本の文字をよく見かける。
意味は通じるのではなく、飾りで使っています。
クールだと思われていて、特に意味があって、伝えようとしているわけではありません。

ドイツの家具の広告、男の子の部屋だと思われます「女」という文字が使われています。

博物館にいった時に、読めるんですが、
日本の人が組んだのではない、不慣れな感じがします。
表現的におかしい。
文章のおかしい部分。ぶつ切りの文章。
文章の中を読んでしまうと、どこかでひっかかる。
句読点の位置が、文頭に来るのはおかしい。
小学校の作文で直されませんでした?
日本語に不慣れな感じがする。
ちゃんと組んでくれていないのかな.... 残念。
なんだこれ!と笑いましたが、ドイツから日本に来ると、
日本の中に見る欧文は、同じような、笑えないんですよ....
オカシイ使い方を見ると。

それで、欧文書体という本を書きました。
一般向けに「フォントのふしぎ」ブランドのロゴはなぜ高そうに見えるのか?
どこにいってもロゴの見え方は同じ。
でもその有名なブランド、デザイン的に変わったことをしているのか?
オリジナルなものを作っているのか
Futura Medium で組んだだけです。
上のは組んだだけですが、
下、ファサードのお店のファサードは違うんです。
字と字の間が少しづつ開いている。
何にもしない状態はおちつかない。忙しい。
一番したのものは、開いただけで、大人のおちつき、威厳がある。
だから高級感があると思う。
どこからくるのだろう?

話しは 2000年前に戻る。
碑文に書かれている文章が、大文字で、ゆったりと組まれている。
字と字の間が広く組んである。
特徴というのは、大文字のデザインが、
S の時が狭い、O の字が広い。
その時代にはあたりまえのバランスだった。
フーツラは骨格として引きついでいる。
碑文っぽい書き方ができる。
伝統があるようにみえる。威厳があるように見える。
碑文に近づける感じを狙っている。

Trajan というフォントで A の文字を見てみましょう。
どちらが自然に見える?
斜め線が2本あるのに、2本の太さが違うのか?
どちらか一方細くなるのであれば、なぜ左側が細くなるのか?
理由があるわけで、それは、平筆でかく。
最初にしがたきをする。最初平筆でかいたはず。
自然と、こういう風になる。
だから A の左の斜め線は細い。
その方が自然に見えるし、
逆だと、変に苦労する。
書いていて、気持ちよくない。
ちゃんと理由がある
手に筆記具をもった時に心地よい形が基本。

碑文を掘る人の工房にころがりこんで、話しを聞いた時に、
教わった時に、理解しやすかった、
手で書いて自然な方が自然な形。あたりまえの答え。
平筆で書いてみるといい。
カリグラフィーについての本にも書き方がでています。
字の形がわかってくる。

手でもって不自然な形は、漢字もそうです。
みんな小さい時に、習字をやったときに、
横棒は右でとめる、左はらい、右はらいがわかっている。
理由を説明しないでもわかる。

Luca Pacioli によるアルファベット 1543 頃
数学者が昔の時代のローマの字は美しいのですが、
なぜそうなのか分析しようとした。
コンパスと定規だけで書いている。
書いていて、左右が裏返しになれば、気持ち悪いとかんじない。
書こうと思えば、かけてしまう。定規とコンパスだけなので。
この綺麗なアルファベットは、そんなに意味が無いと感じています。
なんでこういう字になるのか説明がない。
平筆でいっぱつにわかる。

オカシイことが、平筆をもって描く人はわかる。
そういう感覚はとても大事。
体にしみ込んでいない人は、こういう間違いをしてしまう、恐れがある。

●補正無しで幾何学的に作ったもの
筆での不自然とは違う。
目の錯覚をうまく調整しているかどうか?
この H は幾何学的に作ったもの。
縦棒と横棒がまったく同じ、横棒の位置が、上下の中心にある。
そうすると、どう見えますか?
横棒がちょっと太く見えてしまう。
上下、真ん中にはなく、ちょっと下がって見えてしまう。
補正をうまくしないと、ちゃんと見えない。
正円だと、もたっとしているようにみえてしまう。
交わる部分を細くすることで、割と自然に見える。
工夫をしているからはじめてできる。
訓練しながら作っています。

さっき平筆の話しがでましたが、
ある学生さんにローマン体の大文字の話しをたずねられて、
関西の学生さんで、ローマン体について、勉強していて、

I の頭がなんで凹んでいるのか? Trajan という書体。
碑文の形をわりと忠実に再現しているデジタル書体です。
もとの掘った書体も、凹んでいる。
なんで凹んでいる?
筆で書いてみないとわからない。
三回にわけてかく。
だから凹むということがわかる。
書いてみるだけで分かることが気付くまでに時間がかかる。
書いてみせたり、ワークショップやるとわかる。
基礎として、教えるのはアジアではまだまだ少ないが、
ヨーロッパでは普通にやる。ならっておいたほうがいい。

古いタイプの書体。
Trajan , Adobe Garamond, Baskarville
という書体があります。
下の曲がっている部分、なんで丸いの?
なんで?その説明は難しい。
これも書いてみるとわかる。
丸いということが説明できる

本を読んで勉強するだけでなく、
自分で書いてみるのが大事。

チョコレート大好きです。
ベルギーのお店にいってきました。
タイムズローマンでした。
悪い書体ということではありません。
どちらかというと、新聞などに使われる
感情を込めない書体としてむいています。

そのうち Trajan に変わりました。
いま一番新しいのは Cochin Italic に変わりました。
基本的な骨格は変わりません。
ブランドが味の繊細さや伝統、高級感を考えているのです。

セリフがついた所外、一番上が Trajan
Century Old Style
Times Roman
新聞の本文で威力を発揮する。
ロゴで伝統を表現するには向かない。

フーツラの S と比較してみてくだしあ。
C がまんまるですが、他の書体は C、
S, Rの頭が狭い、足が広い。
頭が大きいフォントがある。
悪い書体わけではない。
その違いがわかっていると、
皆同じということにはならない。書体の使いわけができる。

●サンセリフ体
Futura
Helvetica

H h
先になんにも無い書体。
サン = 無い、セリフは、ヒゲの部分。
19世紀の始め、芝居のビラ。見出しの文字に使われていた。
同じ太さに見える書体。
典型的な 19世紀の書体。
3つに共通した、19世紀っぽい感じがあるのは、
間の部分がひどく閉じている、割と閉じ気味。
数字も閉じ気味な感じがする。
Akzdenz-Grotesk 1896 など

humanist と呼ばれる書体
Frutiger 1976 という書体
C が綴じ気味だった昔の書体をひきづった書体と、
C があいて、Sも開いている、E が違う。
E が広いのは 19世紀っぽい、
Frutiger は左右が広くて、口が開いている。

これは、案外 2000年前の書体に近い。
そんなにかけ離れた話しでは無い。
S の左右が狭い。そのかわりに O が広い。
C が広くて口があいている。
やっぱり人間で手で書いて、手で掘っているのに通じる。

フルティガーさんと一緒に仕事しているので、
現代のフォントに取り入れる。
空港で使うフォントとして使われている。
表意用として使われるフォント
何でも読みやすいのか?
太さが一定の書体だが....
書体の選択を誤って読みにくくなっている例
上下の高さはいらないから、左右にゆったりした書体を選んで....
サンセリフだから読みやすいとはならない。

イタリアの空港。読みにくい。
斜めから?
真っ正面から眺める、ゆとりは無い。
それは、ちゃんと考えないと、サインとして機能していないかんじ。
悪条件でも読みやすいのがフルティガー

ヘルベチカと比較すると、Sの字の違いがかなりおおきい。
開き具合、口のあき具合は大きい。
ヘルベチカはかなり閉じ気味

条件を悪くしてみましょう。
ぼかしてみると、フルティガーはまだ読めます。
そういうところが評価されているのではないか。
世界各地で使われています。
ロンドンの空港、アレンジされたフルティガーが使われています。
ソウルのピンチョン空港。
羽田空港もフルティガーです。
上海空港。
オランダの駅も。
駅の構内。
迷わないという安心感がある。
日本でも使われていて。
表示以外では、スイスの郵便。
ベルンの街中。
スイスの高速道路。フルティガーの特注版。
いろんなところで使われています。
2000年前の文字と同じという自然さが残っているのが特徴。
NY です。夕暮れ時にもはっきり見えます。
かなり角度がついていても読める。というのは空くべきところが開いてみえるから。
開いている、内側の部分が開いている、
書体デザインでは、「ふところ」と言う。
そういったところが開いている書体と、開いていない書体とでは、
比較してみると、表示とかに限っていうと、フルティガーの方が優位。
これだけ角度が付いても読みやすい!というのは新鮮名発見。

別々の話しではなく、同じぐらい。
20世紀の後半の新しいサンセリフなのですが
人間っぽさを持っているのが素晴らしい。

「ふところ」の広さと、文字本来のプロポーション
それがヒューマニスト・サンセリフ体
表示に向いている書体と、向いていない書体がある。

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Q. 右手で筆を持って文字を作って.... 左ききの人は?

A. 8割以上の人が右手に筆を持って書くと思います。
ローマン体は右手です。左手の人は?カリグラフィーをやる人。
左利きの人が居るんです。
イギリスの書家で、右利きの人と同じ時を書きます。左手で筆を持ちますが。
それは不自然に見えるから、左用の文字にはしない。
余計なところに、注意を集めないことは結構重要。
左利きでも同じように書くようにしている。
左利きだから特別なバランスの文字を作るわけではない。

Q. フルティガーは数字のデザインを良く見るのですが、碑文には数字はあるのか?

A. 碑文の時代には、アラビア数字は無かったんです。
当時はローマ数字、時計の文字盤のような数字。
アラビア数字が使われるのは何百年もあと。
古代ローマ時代には小文字も無かったので、大文字で彫っていた。

Q. フルティガーの数字は?

A. 他の文字(数字、小文字)がどうなるのか、長年の経験で作ってしまった。

Q. 空港にあわせて特注で文字を作っている。既存のフォントで適していれば、そのまま使ってしまう?

A. フルティガーをアレンジしたヒースロー空港の文字。
大文字と小文字の高さのバランスを少し変えています。
もともと、BAA という別のセリフ書体があって、
それはオリジナル書体ですが、
大文字と小文字のバランスをそれにあわせて欲しいというリクエストがあって、
1は、下に横棒がついている。
BAA というクライアントが持っている決まりにあわせて変更しました。
その変更が無くても、活躍しています。
たまたまそこの規定にあわせて変更する場合もあります。

Q. フルティガーは最近になって、碑文に近いバランスの書体として使われるようになっている。
そういう風に見直されるきっかけは?

A. もともと空港用に作られた書体なので、読みやすさに優れているので、
他の空港でも、駅でも、読みやすさの観点から選ばれている。
古代ローマ時代とどう同じという観点では評価されているわけではない。
たまたまそうじゃないかと考えているだけで。
いくつかの書体か比べてみると、フルティガーが良くて評価されている。